かくも儚い恋心…
一途な想いは、時を越えて今もその胸に生き続ける…
それっきり
何の物音もしなかった。
しばらくそのままで硬直した後、ボクは恐る恐る辺りを見渡した。
なにも…いない。
子供は消えたままだ。
そして女性が居る方を覗いて見ると、女性はそこに居た。
さっきと同じ姿勢で同じ方向を見ていた。
大庄さんのお宅を見ているようだ。
闇に浮かぶ白い横顔がここからでもよく見えた。
あれ…?
あの女性は…。
ボクはその女性に見覚えがあった。
木村さん(仮名)じゃないか?
じっと大庄さんの方向を向いている横顔は、よく配達に行く木村さんのその顔だった。
なにしてるんだ?
ボクはこの時だけは、子供の事も忘れ、身を低くしたまま木村さんを凝視した。
木村さんはまったく動く気配も無く、ただ、大庄さんの家の方を見ている。
暗闇の中で。
ただひとりで。
大庄さんの玄関が開く音がした。
その瞬間
さあと明るくなった。
雲が晴れたのだ。
月明かりが辺りをやわらかく照らし出した。
ケータイ小説
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