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ケイタイ小説 想い出幽霊

かくも儚い恋心…
一途な想いは、時を越えて今もその胸に生き続ける…


想い出幽霊

第二十二章:蝦夷菊

しゃがんだまま、じっと墓を見つめる。


夏の訪れを告げるように蝉が鳴いている。
 
 
 
 
ぱんと膝を叩いて立ち上がった。
 
 
いいじゃねえか。

世の中には不思議な事もある。

突き詰めれば案外簡単な理屈なのかもしれないが、ボクにはわからない。

ボクの世界の中では
ボクが分からなければ
ボクの未知の世界と同義だ。
 
あの夜、
ここでボクはそれを見た。

闇の住人なんかじゃない。

頑なに、ひとりの人を愛した人の夢を見たんだ。
 
 
それでいいじゃねえか。



ボクは歩き出した。
目の前に大きな夾竹桃がそびえている。

その夾竹桃の樹の下で蝦夷菊が小さく咲いていた。


木村さんが生前よく言っていたな。
 
 
「蝦夷菊の花言葉はね『思い出』とか『美しき追想』なんだよ。あの人をずっと想ってるアタシのことみたいだろう?」


一陣の風が、
ふわと吹いた。


ボクは、そこに子供の笑い声を聞いたような気がした。



【想い出幽霊 完】

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