かくも儚い恋心…
一途な想いは、時を越えて今もその胸に生き続ける…
しゃがんだまま、じっと墓を見つめる。
夏の訪れを告げるように蝉が鳴いている。
ぱんと膝を叩いて立ち上がった。
いいじゃねえか。
世の中には不思議な事もある。
突き詰めれば案外簡単な理屈なのかもしれないが、ボクにはわからない。
ボクの世界の中では
ボクが分からなければ
ボクの未知の世界と同義だ。
あの夜、
ここでボクはそれを見た。
闇の住人なんかじゃない。
頑なに、ひとりの人を愛した人の夢を見たんだ。
それでいいじゃねえか。
ボクは歩き出した。
目の前に大きな夾竹桃がそびえている。
その夾竹桃の樹の下で蝦夷菊が小さく咲いていた。
木村さんが生前よく言っていたな。
「蝦夷菊の花言葉はね『思い出』とか『美しき追想』なんだよ。あの人をずっと想ってるアタシのことみたいだろう?」
一陣の風が、
ふわと吹いた。
ボクは、そこに子供の笑い声を聞いたような気がした。
【想い出幽霊 完】
ケータイ小説
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