ボクは…誰と話したんだ?
この電話は何処に繋がったんだ…?
飛び上がりそうになりながら振り向くと、さっき帰った住人が夫婦で出てきていた。
「107号はあそこだよ。取り壊したんだ。建物ごと。事情があってね。…今はホラ、墓が建ってる。」
「!!」
確かにそこには墓石らしきものがあった。
107号室からは別棟になっていたのだろうが、今は取り壊されて106号室の隣に、ひっそりと墓石が立っている…。
そしてそこに誰かがいる!歩いてる!
住人は話し続けている。
俺を怪しがりながら。
当然だ。
こんな夜に墓の場所を聞くなんて危ない奴。そんな風に。
当然だ。
「…事故の後…そう…責任…海で」
途切れ途切れに話が聞こえている。
(海で自殺?…あぁ、雑音じゃなかったんだ。あの電話は…あれは海鳴りだったのか。)
だが、話なんか聞いてられなかった。
目が…、自分の目が向こうに歩いていくやつから離せなかった。
墓のほうに歩いていくあいつ。
…あれは…俺だ!
ふわふわと
少し波に足を取られる様に歩いていくあいつは、俺じゃないか!
「おい!」
ハッとした。
住人に肩をつかまれた。
呪縛が解けた。
住人に一瞬目を向けすぐ戻した。
無い!
クルマが!
あいつも消えた?!
あるのは俺の…俺の今乗ってきたクルマだけだ。
う、うわあぁーっ!
俺は叫んだ!
変な奴って思われてもいい!
ただ逃げ出したかった。
突然の叫び声に驚いている住人をよそに、俺はクルマに飛び乗り急発進させた。
ケータイ小説
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